2014年8月10日日曜日

第170号 地政学リスクの考え方(3) 水の道とチョークポイント

第170号 地政学リスクの考え方(3) 水の道とチョークポイント              ワイルドインベスターズ株式会社 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★ 地政学でも様々な考え方がありますが、日本人として特に意識しておかなければならないことがあります。 それは「水の道」と「チョークポイント」です。 **************************************** 陸上でモノを運ぶには、コストがかかります。 人が運ぶのは限界がありますし、牛馬に運ばせるとその世話やエサ代が大変です。 「陸の道」は多くの国を通って関税を払い、山賊に注意しながら旅をしなければなりません。 ライバルも多く、コストがかかり、危険も多いのです。 ***************************************** しかし船であれば、大量の荷物を少人数で運ぶことができます。 他の人がたどりつけない地域に行けば、足りないものを交換し合って大きな利益を得ることができます。 もちろん海賊もいますが、基本的に水の上は自由です。 むしろ人よりも自然と戦わなければならないので、助け合うための「海のルール」が発達します。 水上交易の利益は大きく、自由で協力的な文明が発達します。 ***************************************** 航海技術が未熟な頃、「水の道」は比較的静かな内海や湖に限られていました。 ギリシャ・ローマ文明が発達したのも、地中海を内海とした交易が盛んだったからです。 日本でも西日本が先に発展したのは、中国からの距離が近いことと 瀬戸内海・淀川・琵琶湖などの水運が経済を活性化させたからです。 ただしこの頃はまだ陸上交易も重要で、内陸でも交通の要衝となる町が数多く発展していました。 ***************************************** しかし「大航海時代」が到来すると、局面は一変します。 優れた航海技術を持つ国は遠い大陸まで足を伸ばして、莫大な利益を得るようになりました。 西洋諸国はアメリカ大陸やアジアまで勢力を広げ、植民地を獲得しました。 海上交通を握る者が世界の覇権国家となり、スペイン→オランダ→イギリス→アメリカと推移しました。 その「海洋覇権=覇権国家」という図式は今でも続いています。 ***************************************** これにより海へのアクセスを持つ国が有利になりました。 特に島国は防衛がしやすく、なおかつ海へのアクセスが豊富なので内陸国より有利です。 また島国でなくとも、天然の良港を持つ地域は繁栄しやすくなりました。 まず沿岸部が生産と交易で栄え、その恩恵が内陸に行き渡ることが多いのです。 これは中国の発展パターンを見てもわかるとおりです。 ***************************************** こうして「海の道」が開拓されると、かつて重要だったシルクロードやステップロードの価値は減りました。 海へのアクセスを持たない内陸国は、発展から取り残されることが多くなりました。 外洋も内海も河川(淡水)も豊富にあるということは、とてつもなく大きなアドバンテージなのです。 ただ日本人にとっては当たり前の話なので、気付きにくいかもしれません。 ***************************************** 内海や湖の価値が減ったわけではありません。 しかしもっと重要になったのは、大きな海同士をつないでいる狭い水路です。 これを地政学では「チョークポイント」と呼びます。 チョークポイントを効果的に押えることで、世界の海を支配することができるのです。 ***************************************** これは今でも変わっていません。 なぜ中国が尖閣諸島・沖縄・台湾・南シナ海を欲しがるのか。 なぜロシアは「核戦争も辞さない」と言いながらクリミアを回収したのか。 チョークポイントや制海権を巡る争いは、今も昔も続いているのです。

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