2014年8月12日火曜日

“5万回斬られた男”無欲の受賞 「太秦ライムライト」国際映画祭で快挙

“5万回斬られた男”無欲の受賞 「太秦ライムライト」国際映画祭で快挙 中原幹雄  カナダ・モントリオールで開催された「第18回ファンタジア映画祭」で、“5万回斬られた男”の異名を持つ斬られ役の俳優、福本清三の初主演映画「太秦ライムライト」が最優秀作品賞のシュバル・ノワール賞と、福本が最優秀主演男優賞を受賞。日本映画初、日本人初の快挙で、71歳の福本は歴代最年長での受賞となった。その福本、とにかく謙虚でブレない軸を持った人。まさに“サムライ”のようなのだ。 わしでは客が入らへん  初ものづくしの快挙に福本が寄せたコメントが人柄を表していた。「私は仲間たちに支えられて撮影を全うすることが出来たに過ぎない。ご選考くださった方々には失礼な話ですが、何かの間違いのようで、落ち着かない気持ちでいっぱいです」と素直な気持ちを語り、「この受賞は、苦労をかけたスタッフ全員の熱意と努力の賜物です。ただただ、感謝の一言しかございません。ありがとうございます」としめていた。  「太秦ライムライト」はチャプリンの名作「ライムライト」をベースにした作。京都・太秦を舞台に、斬られ役として活躍してきた老いた俳優と、弟子の新進女優(山本千尋)の心の交流と世代交代を描く。「日本チャップリン協会」の会長で脚本家の大野裕之さんが企画。福本さんの初主演作のため、松方弘樹、萬田久子、小林稔侍ら太秦ゆかりのスター俳優が脇を固めた。  作品の公開前、京都・太秦の撮影所で本人を取材した。念願の初主演映画かと思いきや、最初は断ったのだという。「僕らの頭の中では、主演は二枚目のスターさん。斬られ役のわしが主演なんて、ありがたいけど、そんなあほなことはあらへん。芝居もできへんし、わしではお客が入らへん。斬られ役やったら出させていただきますから、と言ったんです」 「レリゴー」の精神で  翻意したのは、長年応援してくれているファンの声だった。主演作の依頼話を聞きつけたファンは「そのためにずっと応援してきたんやで」と言った。福本さんは「恩返しをしたいと思った」と話した。  「頑張っても、芝居はできへん。ありのままの自分でやろうと」  日本映画を陰で支え、斬られるために、太秦に生きる斬られ役。時代劇全盛時代、100人以上いたが今や数十人に。この主演作を「わしにはもったいない、最初で最後の死に土産」と称する自身と、物語が重なる部分も多かった。「物語の最後のはかなさ、死に花を咲かせてもらった気持ちが分かる。現実でも、これから若い人が時代劇をつないでいってくれれば」  昭和33年に15歳で東映京都撮影所入り。仕事を増やすために立ち回りを学び、常に「絵になる斬られ方」を考えていた。本番で斬られた時、会席料理が並ぶ机の上へ意識的に倒れ、「すんません、滑りました」と言ったこともある。事前に禁止されていたため、スタッフからかなり怒られたが、監督の「これもええな」の声で採用された。  「一か八かでしたよ。斬られ役に正解はない。いろんなことを試行錯誤してやりました。いかに印象を残して、名前を覚えてもらうかでしたから」 Tクルーズの言葉に感動  無茶はするが、大きなケガをしないことも買われていた。「小さい頃は河原を駆け回って遊んでいたし、小6から中3まで新聞配達もしていたから、足腰は丈夫」と笑う。俊足で中学時代、100メートル走で県大会出場したこともあるという。  トム・クルーズ主演映画「ラストサムライ」に出演したときのこと。そのスケール大きさに度肝を抜かれたが、映画への愛情の持ち方は万国共通と感じた出来事があった。膨大な数のエキストラを要したニュージーラドでの撮影後、トムさんは全員に見えるように高い場所に上がり、演説をした。  英語だったが、トムが「エキストラの皆さん、ありがとう」「この映画を絶対に成功させる」と言ったのが分かった。「大拍手が巻き起こってね。スターもエキストラも現場ではフェアだと言ってくれているのだと。それもトップスターが。感動しましたね」  それは自身の軸、斬られ役としてのこだわりでもある。「いつも本気で相手を斬るつもりでいく。行った瞬間、相手の方が強かっただけ。殺し合いですからね。その気持ちがないと絶対にあかん」。倒れ方に感動し、参考にしていた俳優、チャプリンを引き合いに出し、「作品の最後にNG集が流れるでしょ。満足がいくまで何度も繰り返し倒れている姿を見ると、僕らがサボっていたらいかんと思うんです」 オフは“空想旅行”  今作のキャッチコピーは「どこかで誰かが見ていてくれる…」。が、福本は言い切る。「一生懸命やった先に何かあると思ったら、終わり。結果をあてにしたらいかん。どんな状況であっても、自分のペースで必死で仕事をするだけ。僕はそう思っています」  買い物で迷ったら、買わない。「もう一回、(気持ちを)確認する時間があった方がいい」という慎重派。今作の主人公とは異なり、自身は酒を飲まない。タバコもぴたりとやめた。新婚旅行にも行かなかった“仕事の虫”のオフは、テレビの旅番組を見て“空想旅行”している時間が一番楽しいという。  「自分にはもったいない」「ありがたい」を繰り返した控えめな人。が、写真撮影で、竹刀を持った瞬間、“目”が変わった。カメラに向かって突きのポーズをした時の眼光の鋭さが今も記憶に残る。斬られ役として55年のキャリアを積み重ねてきた俳優の“晴れ姿”を体感してほしい。  「太秦ライムライト」は関西では、T・ジョイ京都で15日まで上映中。

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