2014年7月17日木曜日

『米国上院が日本の核武装を論じた』北朝鮮の核兵器開発への対抗策として浮上

『米国上院が日本の核武装を論じた』北朝鮮の核兵器開発への対抗策として浮上              2013.03.13(水) 古森 義久 米国連邦議会の上院外交委員会で「日本の核武装」が主要な論題となった。熱っぽい討論が繰り広げられた。この展開はこれまでの日米関係の常識では想像もできなかった事態である。私自身、まったく驚かされた。  米側での日本の核武装論については、つい2週間前の当コラムでも取り上げてはいた。ただし、その事例は前ブッシュ政権の国務次官だったジョン・ボルトン氏が大手新聞への個人としての寄稿論文で言及したことにとどまっていた。ところがその直後の3月7日、今度は立法府の最高機関の上院の、しかも外交委員会という国政の大舞台で複数の議員や新旧の政府高官たちが論議したのである。  この舞台は上院外交委員会全体が開いた「米国の対北朝鮮政策」と題する公聴会だった。  この種の外交課題についての公聴会は、同じ上院でも外交委員会の下部に複数ある小委員会の1つが主催することがほとんどである。だが重要なテーマについては母体の委員会全体が主催者となるのだ。ちなみに外交委員会には民主、共和両党の議員合計20人が加わっている。  この公聴会はタイトル通り、長距離弾道ミサイルの発射や核兵器の爆発の実験を断行し続ける北朝鮮に米国はどう対処すべきかが討議の主題だった。その流れの中で「日本の核武装」というテーマが再三再四、論じられたのである。 ■北朝鮮の核兵器開発に米国が大きな危機感  その論議の趣旨を最初に総括すると、以下のようになる。  「米国は北朝鮮の核武装、特に核弾頭の長距離弾道ミサイルへの装備をなんとしてでも防ぐべきだ。だがこれまでの交渉も対話も圧力も制裁も効果がなかった。いまや北朝鮮の核武装を実際に非軍事的な手段で阻止できる力を持つのは中国だけである。  その中国がいま最も恐れるのは日本の核武装だ。だから日本の核武装というシナリオを中国に提示すれば、中国は北朝鮮の核武装を真剣になって止めるだろう。  その一方、北朝鮮が核兵器の保有国として国際的にも認知されるようになると、日本側で核武装への動きが起きかねない。米国政府は核拡散防止条約(NPT)の主唱者でもあり、日本の核兵器保有には反対だが、北の核武装が公然たる現実となった場合には、日本が核を持つ可能性も改めて米側で論議すべきだろう」  どんな趣旨にせよ、日本の核武装などというシナリオ自体、日本で猛烈な反発が起きることは必至だ。世界で唯一の核兵器の犠牲国という歴史の重みは特記されるべきだろう。非核三原則も生きており、国民の多数派から支持されている。だから現実の国家安全保障という観点からでも、日本の核武装などという言葉には激しい非難が沸くであろう。仮説のまた仮説であっても、日本が核兵器を持つという想定は、それを表明するだけでも犯罪視されかねない。  ところがその一方、北朝鮮というすぐ近くの無法国家が日本や米国への敵視政策を取りながら、核弾頭ミサイルの開発へと驀進している。米国の政府や議会がその核兵器の無法国家への拡散を必死で阻止しようとしながら思うにまかせず、その事態が深刻になる中で、北朝鮮の核武装への阻止の手段、あるいは抑止の手段として日本の核武装という想定を語る。これまた無視のできない現実なのである。  北朝鮮の核武装という事態が米国にそれほどの危機感を生んでいることの証左でもある。米側のそうした現実は日本側でいくら反発を覚えるにしても、自国の安全保障政策に絡んで実際に起きている現象として知っておくべきだろう。北朝鮮の核兵器開発は米国にも東アジアにも、そして日米関係にもそれほど巨大なインパクトを投げ始めたということでもある。 ■東アジア地域で核保有国が続々と出てくる?  さて、それでは実際に日本の核武装はこの上院公聴会でどのように論じられたのか。2時間半ほどにわたったこの公聴会の模様からその関連部分を拾い上げて報告しよう。  まず公聴会の冒頭に近い部分で上院外交委員長のロバート・メネンデズ議員(民主党)が日本に言及した。  「私たちは最近、政権指導者の交代があった日本についても、金正恩政権にどう対処するか、その効果的なアプローチをともに考える必要があります」  メネンデズ委員長の冒頭発言の後に登場した最初の証人はオバマ政権国務省のグリン・デービース北朝鮮担当特別代表だった。そのデービース代表に委員会側のボブ・コーカー議員が質問する。  「北朝鮮の核問題では、米国の同盟国である日本と韓国が米国の抑止への信頼を崩さないようにすることが重要ですが、あなたも承知のように、米国はいま核戦力の近代化を進めてはいません。だから日本などが米国の核抑止による保護への懸念を抱くとは思いませんか」 デービース代表が答える。  「私は国務省に勤務するので、その問題への十分な答えはできないかもしれませんが、私の知る限り、日本では米国の防衛誓約が危機に瀕したという深刻な心配は出ていないと思います。たぶんオバマ政権の『アジアへの旋回』戦略がその種の心配を抑えているのでしょう」  この時点から他の議員たちが加わっての意見の表明や質疑応答がしばらく続き、マルコ・ルビオ議員(共和党)が意見を述べた。ルビオ議員は若手ながら共和党側で次期の大統領候補の1人とも目される気鋭の政治家である。  「私がもし日本、あるいは韓国だとすれば、北朝鮮が核武装を進め、その核兵器保有が国際的に認知された場合、自国も核兵器を保有したいと考えるでしょう。だから北朝鮮の核武装による東アジア地域での核兵器エスカレーションへの恐れは極めて現実的だと思います」  クリストファー・マーフィー議員(民主党)も日本に言及した。  「北朝鮮の核武装が公然の現実となると、東アジア地域の力の均衡は劇的に変わるでしょう。10年、あるいは15年後には日本を含め、4カ国、または5カ国もの核兵器保有国が出てくるかもしれない。中国はそんな展望をどう見るでしょうか」  デービース代表が答えた。  「中国は日本と韓国での一部での核についての議論には細かな注意を払っています。私は日本でも韓国でも核兵器開発を支持するコンセンサスはまったくないと思います。しかし中国は気にしています」 ■日本の核武装を極度に恐れる中国  やがてデービース氏が証言と質疑応答を終え、第2の証人グループとしてスティーブン・ボズワース元韓国駐在大使、ロバート・ジョセフ元国務次官、ジョセフ・デトラニ元6カ国協議担当特使の3人が登場した。  委員長のメネンデズ議員が北朝鮮の核武装を防ぐ上での中国の重要性を改めて強調した。  「2005年に北朝鮮がそれまでの強硬な態度を改めて、非核の目標をうたった共同声明に同意したのは、中国が援助の削減をちらつかせたことが大きな原因になったそうですが、これから中国にその種の北朝鮮への圧力を行使させるにはどんな方法があるでしょうか」  この問いにはジョセフ氏が答えた。同氏は前ブッシュ政権の国務次官として軍備管理などを担当し、北朝鮮の核問題にも深く関わっていた。  「私自身の体験では中国が北朝鮮に対する態度を大きく変えたのは、2006年10月に北朝鮮が最初の核実験を断行した直後でした。この実験は米国にも東アジア全体にも大きなショックを与えました。  私は当時のライス国務長官に同行し、まず日本を訪れ、当時の安倍(晋三)首相や麻生(太郎)外相と会談しました。その時、安倍首相らは米国の日本に対する核抑止の誓約を再確認することを求めました。米側は応じました。しかしその後、すぐに北京を訪れると中国側はまず最初にその日本への核抑止の再確認に対する感謝の意を述べたのです。そして米側の要望に応じて、北朝鮮に強い態度を見せました。  中国は日本の独自の核武装の可能性を心配していたのです。しかし米国が従来の日本への核のカサを再確認したことで、日本独自の核開発はないと判断し、それを喜んだのです。その時、中国は初めて北朝鮮への国連の制裁決議に同意しました。それほど中国は日本の核武装という展望を嫌っているのです」  マーフィー議員がジョセフ氏に質問した。  「日本が現在の政策を変え、米国の核のカサから離脱して、独自の核武装能力を開発するという可能性はあると思いますか」  ジョセフ氏が答える。  「はい、議員、私はあると思います。それはもし米国が北朝鮮の核の扱いに失敗し、同盟国への核抑止の誓約の明確な宣言を履行せず、ミサイル防衛も十分に構築しないというふうになれば、日本は長年の核アレルギーを乗り越えて、独自の核による防御策を取るだろう、ということです」  以上が上院外交委員会の公聴会で出た「日本の核武装」についての言葉のほぼすべてである。そのやり取りには、北朝鮮の核武装に始まるいくつかの事態が起きれば、日本は独自でも核武装を真剣に考え、実際にそのための手段に着手する、という見解に集約できるだろう。日本自身が核武装をたとえ望まなくても、中国に対する外交カードとしては使ってほしい、という期待でもあろう。  日本を取り囲む東アジアの核の現実はこんなところまで進んでしまったのである。

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