2014年4月3日木曜日

『地政学を英国で学んだ』

『地政学を英国で学んだ』                    奥山真司 歴史家であり、保守派としても有名な知識人である、ヴィクター・ディビス・ハンソンの「アジア・ピボット」批判がナショナル・レビュー誌のサイトに掲載されておりましたので、その要約を。 ------------------------------------------- 【張子の虎は戦争を生む】                Byヴィクター・ディビス・ハンソン ●ルーズベルト政権は台頭する日本を見据えて「アジアに軸足を移すこと」を警告するようなコメントを出したことがある。 ●この警告の本気度を示すため、彼は1940年5月に第7艦隊の母港をサンディエゴからハワイの真珠湾に移している。ところがこれには艦隊の実質的な強化は伴っていなかった。 ●当時の太平洋艦隊の司令官であり、日本海軍の専門家であったジェームス・リチャードソン提督は、このような向こう見ずな配備替えについては猛烈に反対している。彼はこのような動きによって防禦が高まるというよりは、奇襲を受ける可能性が高まると感じたからだ。 ●リチャードソンはこれによって司令官を解任され、彼の経歴は終わってしまったのだが、実際に1941年12月7日に日本軍が真珠湾攻撃を行ったことによって彼の正しさが後に証明された。 ●同時にイギリスはしつこく「シンガポール戦略」(Singapore Strategy)を推進しつつ、マレーシアの英軍の基地を「太平洋のジブラルタル」であると喧伝していた。ところがロンドン政府は、最新鋭の航空機や空母、もしくは銃砲などを太平洋に送らなかった。 ●日本はこれらの動きに取り立てて関心を持たず、真珠湾の直後にこの基地を攻撃した。1942年2月に彼らはシンガポールで降伏したが、これは英軍にとっての最も不名誉な敗北であった。 ●1949年までにアメリカはアジアで共産主義の拡大を「封じ込め」ることを決心していたが、ルイス・ジョンソン国防長官(彼は1948年のトルーマンの大統領選における財務担当のトップであった)でさえも海軍と海兵隊は時代遅れになっていると言明し、両軍の予算を大幅に削減しはじめたのだ。 ●この後に「提督たち反乱」が起こったが、それも後の祭りであった。ところが毛沢東の中国とスターリンのソ連がアメリカの「空威張り」と実際の国防費の削減が無関係であることに気づいた。 ●そのために、1950年6月に彼らは北朝鮮の韓国への進軍を許可したのだ。 ●歴史の共通項として挙げられるのは、アジア太平洋地域というのが常に危険な場所であり、強い行動を求める声は、掛け金の釣り上げの結末に備えることとは違うということだ。威勢のいい言葉というのは、それを証明しようとする悪党たちの挑戦を促すことになる。 ●アメリカが現在の「アジアへの軸足移動」を、艦船、航空機、そしてマンパワーなどの増加という実質的な行動を通じて本気で実行するつもりがなければ、不本意ながら中国に従うか、核武装をするかの選択に直面しなければならなくなってしまう同盟国たちに対して、いくらわれわれの決意を胸を叩いて見せたところで、全く意味のないことになってしまうのだ。 ●中国にとっては、われわれが防衛費をカットしながら自信を持って語ってみたところで全く心を動かされないのであり、これは戦前の日本が、米軍古くなった戦艦を真珠湾に単なるジェスチャーとして配備したところで何も感じなかったことと一緒だ。 ●また、日本はイギリスの戦艦プリンス・オブ・ウェールズと巡洋艦レパルスが制空権なしにシンガポールに派遣された時に何も感じなかったことと一緒だ。 ●米英の二つの動きは「抑止力」というよりは「攻撃目標」として見られたのであり、共に海の藻屑と消え行く運命となった。 ●同様に、1940年代後半の「赤い中国の封じ込め」は、戦後のアメリカがアジア中に小規模な駐屯軍を派遣していながらも、新しい空母の調達をキャンセルしている状態では意味がなかったのだ。 ●オバマ大統領の「アジアへの軸足移動」というのは、その発言を見る限り、かなり確固としたものになりつつあるといえる。 ●ところがこのようなレトリックの問題は、その言葉が空約束であるだけでなく、その空約束がまったく予期できる形で空っぽであるという点だ。もし約束できないものであるとしたら、少なくとも彼はそれについて黙っておくべきではないだろうか? ●ロシア、中国、北朝鮮、もしくはイランなどは、心を動かされないどころか、そのような説教を単なる空約束であることを確信するだけだ。 ●オバマ氏の脅しは、まるでギャンブラーが自分では気づかずに顔をひきつらせてしまい、相手に手の内の切り札がないことを知らせてしまうようなものだ。 ●より賢明なやり方は、アメリカが侵略を抑止することができるのか、もしくは最初からやるつもりがないのか、それともその目標を実現するための能力がないのかを先に決定しておくことだ。 ●われわれの安全保障の「限界」が確定しているとすれば、われわれは黙って同盟国たちと相談し、トラブルメイカーたちに次の一手を想像させ、もし必要とあらば侵略を阻止するために軍事力を使えばいいのだ。 ●日本、台湾、韓国、フィリピン、そしてオーストラリアたちは、アメリカの大統領や国務長官が侵略者にたいして「19世紀のようなやり方は許しがたい」と述べたり、第三世界にたいしてホモを恐れるなと言ったり、世界にたいして気候変動を警告するよりも、アメリカの空母を実際に見た時に「自分たちの民主制度は安心だ」と納得する確率が高いのである。 ●ロシアの場合もそうだ。われわれはロシアとの2009年の「リセット」が、オバマ政権が前のブッシュ政権が行ったグルジア危機のあとの制裁を解除するために行ったものであることをすっかり忘れている。 ●たしかにこの時のロシアの行動は、アメリカがアフガニスタンとイラクで膠着状態になっており、ブッシュ政権は2006年の中間選挙で弱体化したことを見越してのもので、これはある程度予測できるものであったといえる。 ●ポーランドとチェコで新たなミサイル防衛システムを設置しようとしたことや、核弾頭削減交渉の停止、モスクワとの公的なコミュニケーションの縮小、そしてイランをロシアの介入から孤立させようとする大胆な動きなど、これらはすべてモスクワに対して「周辺国に手をだすな」というメッセージを発する意図が込められたものであった。 ●ところオバマ氏は、政権についたとたんに「米露関係を悪化させたのはブッシュ政権のグルジア侵攻に対する反応」であり、「ロシアの侵攻ではなかった」と宣言したのである。 ●その結果が、赤いプラスチック製の「リセット・ボタン」であり、これが何も具体的な計画もないままに発せられ、ロシアでの人権侵害に対する声の大きいだけのレクチャーの前触れとなったのだ。 ●われわれのロシアとの関係は、ブッシュ政権の時よりもはるかに悪化している。ウラジミール・プーチンは、単に抑止できなかった――リビア、エジプト、シリア、そしてイランの後に一体誰が抑止されるというのだろう?――だけではなく、クリミアやウクライナの件について、世界に向かってアメリカの道徳的な説教をくじくやり方を見せようと熱心に取り組んでいるのだ。 ●プーチン大統領は、自らの非道徳的な力の誇示が、彼の「実力」ではなく――実際はその力は弱い――彼が実際に「持っている」と思われている力が、ロシア国内や不快な国外の勢力からの尊敬を集めていることを証明できたと感じている。 ●弱い状態でいることは時として危険である。ところが声を大きくしながら独善的でいて、しかも弱い状態でいるということは、本当に危険なことなのだ。 -------------------------------------------- まさにディビス・ハンソンの面目躍如という議論かと。 この人は「西洋流の戦争方法」という、いわゆる戦略文化系の議論を行った人物として戦略研究でも有名な人物です。 ただし個人的には、ちょっと物事を単純化して見過ぎているような気がして、やや微妙な感想を持っております。

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