2013年12月16日月曜日

尖閣上空「日中開戦」の最悪シュミレーション

尖閣上空「日中開戦」の最悪シュミレーション 藤井勝 (1)防空識別圏をめぐる日本と中国の摩擦 2013年12月5日 ◆アサヒ芸能12/3発売(12/12号)より  中国が突然「防空識別圏」を設定し波紋を広げている。圏内に入った自衛隊機に対し「防御的緊急措置」を取るという。尖閣上空は“有事”へ向かう火薬庫となり、このエリアの防衛を担当する九州・沖縄の緊張が高まるばかりだ。何が起こり、どうなるのかを専門家がシミュレーションした!  2014年1月某日の尖閣空域上空──沖縄県那覇にある南西航空混成団・通称「南混〈なんこん〉」に所属する204飛行隊の戦闘機F-15Jイーグル2機は、領空侵犯を犯した2機の中国機J-10にスクランブルをかけていた。尾翼には、日本最強のイーグルの証しである白頭鷲〈はくとうわし〉のエンブレムが描かれている。  年が明けてから中国機が自衛隊機に異常接近を繰り返し、嫌がらせをしているのだが、この日は様子が違った。自衛隊機が警告を与える前に、中国機が戦闘を仕掛けるように動き始めたのだ。  異変を感じた2機の自衛隊機は即座に回避行動を取るが、1機のイーグルのコクピットでは、中国機から赤外線レーダーでロックオンされたことを示す警告音が鳴り響いた。  元航空自衛官で軍事ジャーナリストの潮匡人氏が語る。  「通常、ロックオンされれば、あとは発射ボタンを押すだけでミサイルは当たるのです。ロックオンされた段階で正当防衛の『急迫性の侵害』は認められ、自衛隊機は武器使用ができます。その判断は、方面司令官に任されますが、この段階で『撃て』という指示を出せるのかは疑問です」  レーダーを攪乱するために、大量の熱を放出するフレアをまきながら回避行動を続ける自衛隊機。武器使用許可が下りない中、逃げ続ける自衛隊機に向かって、J-10は短距離ミサイルを発射した。  パイロットは優れた操縦技術でイーグルを操り、狙ってくるミサイルを振り切ろうとしている。その瞬間、もう1機の自衛隊機が中国機の背後を取り、機銃で撃墜したのだった。  「日本の自衛隊が我が国の防空識別圏で警告を無視し、一方的に攻撃を行い撃墜した。今後、我が国の領土に近づく日本の軍用機、民間機、民間船舶を攻撃目標とする!」  その日、中国政府は世界に向け、こう「日中開戦」を宣言したのだった──。  中国が「ADIZ〈エイディーズ〉」(防空識別圏)を一方的に設定したのは、11月23日のことである。多くの国では領海・領空を領土から12海里(約22キロメートル)と定めている。航空機の場合、領空からわずかな時間で領土に到着することから、領空の外側にADIZを設定している。そこを通過する際には飛行計画書を当該国に提出するのだが、無許可で通過する飛行機には戦闘機がスクランブルをかけ、注意を呼びかけるのだ。  今回、中国政府は、日本の領土・領海を含める形で自国の防空識別圏を一方的に設定した。日本政府は撤回要求を出したのだが、中国国防部報道官は、28日にこう答えたのだ。 「我が国に防空識別圏を撤回せよと言うならば、日本が先に自国の防空識別圏を撤回すべきだ。そうすれば、我が国は44年後に再考しよう」  国連常任理事国とは思えない“屁理屈”に、世界中は失笑したのだった。 尖閣上空「日中開戦」の最悪シュミレーション (2)防衛の要は九州・沖縄の部隊 2013.12.10  44年前に日本が設定したADIZについて、潮氏はこう解説する。  「GHQ占領時、アメリカ軍が日本の防空を担っており、日本のADIZを設定しました。その後、航空自衛隊ができ、要撃機がそろい、実力がついたところで、空自が防空任務を引き継ぎ、ADIZもそのまま譲り受けたのです。微修正はありますが、基本的にそのラインは変わっていません」  中国の人民解放軍は、陸軍を中心として組織され、海軍・空軍力はしばらくなかった。ところが、近年、海軍・空軍の戦力が飛躍的に伸び、今回の一方的なADIZの設定となったのだ。こうした歴史的経緯を考えれば、中国の理屈がいかに失笑モノかは理解できる。では、設定後、中国は何をするのか──前出・潮氏が予想する。 「世界中から叩かれた中国は、民間航空機に対してのスクランブル発進を極力、抑制するでしょう。設定から3日後に米軍のB-52が飛んでも何もしなかったことから、強大な米軍相手に軽々しいふるまいはしないことも明らかです。考えられるのは、日本の自衛隊機に対してのスクランブル発進でしょう」  一方的に設定したADIZに入った自衛隊機に、中国人民解放軍空軍機はどんな行動に出るのか。軍事ジャーナリストの惠谷治氏が解説する。 「一般的に領空侵犯機に対しては、翼を振るなどの警告を行い、領空外に出るように誘導しますが、従わなければ警告射撃を行い、強制着陸させることもあります。その際、機体が異常接近して、接触事故が起こることもあります。最終的には危害射撃で撃墜させます」  今年1月、尖閣海域で中国海軍が海上自衛隊の艦艇と飛行機にレーダーロックオンを行ったことは記憶に新しい。今回のことを引き金に、尖閣上空で中国側が自衛隊機に対してロックオンを行う危険性はかなり高いのだ。前出・潮氏が語る。 「尖閣の時、日本政府は船に対するロックオンをすぐ断定しましたが、航空機については可能性を指摘しただけでした。つまり、航空機にはロックオンをパイロットに伝える警告装置は付いていますが、それを記録する装置は装備されていないようなのです」  証拠がなければ言ったもの勝ちとばかりに、被害者を装った中国が一方的に宣戦布告をしてくるのは十分考えられることである。  前出・惠谷氏が日中の戦力を分析する。 「装備・練度から緒戦は自衛隊が圧勝するでしょう。そこで政治決着に持ち込めればいいのですが、中国が引かないことも考えられます。日本は資源・物資を海上輸送に頼っています。中国が次々と来る民間のタンカーを攻撃目標にすれば、日本にとっては最悪の事態になります」  尖閣を含む中国のADIZは主に九州・沖縄の部隊によって防衛される。航空機の戦闘においてはレーダーの存在が優劣を決めるのだが、九州には5つ、沖縄には4つの固定レーダーがある。有事の際に中国が九州・沖縄を狙うのは自明の理で、これらの地域が緊張の激震に見舞われることは間違いない 尖閣上空「日中開戦」の最悪シュミレーション (3)中国の外交問題は内政を大きく反映 2013.12.11  なぜ中国は国際社会に摩擦を引き起こすようなことをするのか。日本で最も中国を知る人物と言われる「対中戦略 無益な戦争を回避するために」(講談社)の著者・近藤大介氏が語る。 「中国の外交問題は全て内政問題の延長にあります。習近平(国家主席=60=)政権はスローガンとして『八項規定』を打ち出しました。これは腐敗防止を目的とした贅沢禁止令ですが、これほど厳しいものは毛沢東以来初めてです。ところが、いちばん腐敗しているのは230万人いる人民解放軍なので、彼らは大きな打撃を受けました」  習主席のバックボーンは軍で、その軍を敵に回すとよりどころがなくなるという。当初、軍を特別視して浄化をしなかったが、共産党幹部などの汚職摘発もやったことで、最終的に軍にも手をつけざるをえなくなった。 「今年8月、軍の創建記念日に習主席が何度も軍幹部たちに、『これからは軍も容赦しない。腐敗を摘発していく』と宣言したのです。幹部たちは焦ると同時に、習近平に対するプレッシャーをかけていった」(前出・近藤氏)  軍内部に不満が渦巻く中、11月、中国共産党第18期中央委員会第三回全体会議(通称・三中全会)が行われた。ここでは、今後5~10年の習近平政権の政策が決められたのだ。 「一般庶民は軍の腐敗を徹底的に摘発すると言ってほしかった。軍からすれば、軍備を増強して優遇すると言ってほしかった。しかし、習主席はどちらにもおもねらず『玉虫色』にしてしまったのです」(前出・近藤氏)  軍が最もおびえたのは「軍縮」だったという。トウ小平時代に150万人、江沢民・胡錦濤時代はそれぞれ50万人ずつ人民解放軍を縮小していった。これまで中国は指導者が代わるたびに軍縮を行ってきたのだ。 「軍には、また減らされるのでは、という危機感があるのです。さらに、習近平を守っているのは自分たちだという自負もあり、それで今回、一気に対日妥協はしないという強硬姿勢を打ち出してきました」(前出・近藤氏)  しかし、日本にはアメリカとの日米安保条約が存在する。日本に手をつければ、米軍相手に戦うことになるのだが、中国はアメリカは出てこないとタカをくくっているというのだ。 「オバマは戦争をできないと思われています。シリアで失敗し、イランとは核問題で妥結し、オバマは戦争をしていません。そこまではできないと予測しているようです」(前出・近藤氏)  はたして中国はどこまでエスカレートするつもりなのか。 「今から予算が決まる3月まで、軍はいっぱいあおって予算を取りたいのです。レーダー照射事件が今年1月だったのもその理由です」(前出・近藤氏)  同様に再び1月に、舞台を空に変えて過剰な挑発行為が行われることが懸念される。冒頭の最悪シミュレーションが起こらないよう、日本政府には冷静な対応が求められるのだ。

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